予防・メンテナンス
水だけ10分ペングリップ歯磨き
歯磨きについて
「あなたは、何のために歯を磨いていますか?」
私はカウンセリングの時によくこの質問をするのですが、驚いたことにほとんどの人が返答に困ってしまっています。
もう少しひつこく聞くと、「食べかすを取るため」とか「歯茎のマッサージのため」という返答が良く返ってきます。
間違いではないですが、正しくもありません。
プラークコントロール
では、歯磨きの目的は何でしょうか? それは「プラークコントロール」です。
この言葉は皆様一度は耳にしたことがあると思いますが、意味はご存知ですか?
以前は良く歯磨きのCMで聞いたことはあると思いますが、恐らくこの意味を知っている方はほとんどいないと思います。
歯磨きの目的は文字通り、「プラーク」を「コントロール」することなのです。
というと益々、わかりにくいですよね。
プラークとは
プラークとはいわゆる「歯垢」の事です。では歯垢とは何でしょうか?
歯磨きの仕方が悪かったり、少しサボった翌日の朝に歯の表面を爪でこすると、白くてネバネバしたものが取れると思います。
これが、歯垢です。これは一体何でしょう?
食べカスと思われる方も多いと思いますが、実は違います。正解は細菌の塊です。
細菌はとても小さいものなので通常は見ることができませんが、一箇所にたくさん集まると目で見ることができるようになります。
どのぐらいの量の細菌が集まっているのでしょうか?
なんと1mgのプラーク(=歯垢)の中には300種類の10億もの細菌が入ることがわかっています。
どうしてプラークが問題なの?
細菌がこれだけ集まって「プラーク」の状態になると、細菌は歯の表面にべったりとついて、飲食やうがいだけでは、なかなか取れない状態になってしまいます。
さらに細菌は「バイオフィルム」というバリアのようなもので、外敵から自分たちを守ろうとします。
こうなるとリステリンなどの強力なうがい薬を使っても細菌をやっつけることはできなくなります。
「プラーク」の状態になった細菌は歯の表面に居座り続けます。
ムシ歯の原因菌はそこで、糖分から酸を作り続けます。
すると歯はプラークで作られた酸によって溶けていき、大きな穴が開き、やがてムシ歯の状態になってしまいます。
また歯と歯肉の境目にプラークがつくと、その中にある歯周病の原因菌が出す毒素によって歯を支えている骨が溶けていき、やがて歯はグラグラになって抜けてしまいます。
このようにプラークが「ムシ歯・歯周病」という歯の二大疾患の原因となっています。
また、プラークはインプラント周囲炎や被せ物の2次ムシ歯の原因にもなるので、インプラント治療やセラミック治療の寿命にも影響を与えます。
「プラーク」を「コントロール」する。
細菌がプラークになって、歯に長い間付着していると様々な病気を引き起こします。
問題を解決するためにはプラークを歯の表面から取り除いてやりさえすれば良いということになります。
つまり「プラーク」が歯の表面に付いた状態が長く続かないように「管理=コントロール」することが大切だということです。
プラークはお口にある細菌そのものなのでなくすことはできません。
一度、歯から剥がしても、24時間以内にまた歯の表面に付着してしまいます。
でも、歯に付着してない状態を保っていれば、ムシ歯や歯周病、インプラント周囲炎にはなりません。
つまり「プラーク」はお口の中から完全に除去することはできませんが、害がない状態に管理=「コントロール」することはできるのです。それが歯磨きです。
歯磨きはお口の中のパトロール。
ムシ歯や歯周病の原因となる細菌はたくさん集まってプラークという集団の状態にならなければ悪さはしません。
つまり集団でいたら、バラバラに解散させてしまえて良いのです。
昔、オートバイに乗って集団で町中を走り回って迷惑をかける、「暴走族」というのがいましたが、この人だちは一人だけでは特に害はありませんが、夜になるとオートバイニに乗った若者が集会場に何十人も集まり、そこから皆で集団で町中を縦横無尽に走りに行きます。
これを防止するには、パトロールをして集会場にオートバイに乗った若者がいたらの集会を解散させさえすれば良いのです。
歯ブラシも同じことです。
細菌が歯の溝や隙間などの集会場に集まりプラークとなってしまったら、歯ブラシを使って1日一回はパトロールをして、細菌の集会=プラークを解散させれば良いのです。
プラークを歯の表面から剥がしてやるには、物理的に行うのが最も効果的です。
つまり歯ブラシの毛先でプラークの塊を崩してやれば良いのです。
1日一回10分以上の歯磨きを!!
一回の歯磨きにかける時間はどのぐらいでしょうか?1、2分?長くて5分ぐらいでしょうか?
実はすべての歯の表面からプラークを取り去るには最低でも10分はかかることがわかっています。
歯の本数は親知らずを除けば、上下合わせて28本あります。
歯の構造はとても複雑で歯の表面からプラークを完璧に取り除こうとすると、例えば歯の模型を使ってやってみると分かるのですが、とても大変です。
歯の模型にわざとべたつく汚れをつけてやり、歯ブラシを使って見ながら完璧に汚れをとろうとすれば、一本の歯を綺麗にするのに20秒以上はかかってしまいます。
つまり20秒X28本=560秒以上は時間が必要になります。
目で見ながらお掃除してもこれぐらいかかってしまうのですから、見えない状態で行う歯磨きはもっと時間がかかってしまうことは容易に想像できると思います。
時間をかけることによって、クリーニングのムラを無くす効果もあります。
プラークは歯ブラシの毛先が届かなければ取り去ることはできません。
歯と歯の隙間は毛先は届きにく場所で、ここにプラークがたまりやすく、ムシ歯や歯周病になりやすい所です。
このような所は何回か歯ブラシを当ててやってそのうち一回位しか毛先が届かないかもしれません。
10回当てて1回届けば、100回やれば10回はプラークに届くことができます。
つまり、磨きにく場所も、時間をかけて歯ブラシが当たる機会を増やすことによってムラなく磨くことができるということです。
どれだけ磨けば良いのでしょうか?10分以上であれば、いくら時間をかけても構いません。
でも現実的には2、3時間も歯ブラシを行うのは難しいと思いますので、10~15分ぐらいは磨くのが良いと思います。
「ながら磨き」をお勧めします。
洗面台の前で磨く方が多いと思いますが、立ったまま15分も磨き続けるのは、かなり大変です。
そこでお勧めなのが「ながら磨き」です。
お風呂に入った時やテレビを見る習慣のある方ならば、その時が歯磨きを行う絶好のタイミングです。
湯船に入っている時やテレビを見ている時は、手が空いているので「ながら磨き」ができます。
つまりお風呂に入りながら、テレビを見ながら歯を磨くということです。
特にテレビを見ている時はコマーシャルとコマーシャルの間の時間は10分から15分位なので大体の時間の目安にすることができます。
「ながら磨き」を行う時は歯磨きペーストを使わないようにしましょう。
歯磨きペーストは極力使わない。
皆さんは歯を磨くときに市販の歯磨きペーストを使っていると思います。
それではどのようなものを使えば良いのでしょう?
実は、歯を磨くときには歯磨きペーストは必要ありません。
水だけで十分プラークを落とすことができます。
プラークは油汚れではないので、洗剤では落とせません。
泡がいくらたってもプラークを分解することもできません。
ちょうどお茶碗にこびりついたご飯が、洗剤で流しただけは取れないのと同じです。
機械的に歯ブラシの先でこそいで取るしか方法がありません。
また歯磨きペーストには研磨材が入っています。
本来歯の表面は凹凸が多少あるのが正常なのですが、歯磨きペーストをずっと使って一生懸命磨いていると歯磨きペーストの研磨材が歯の凹凸を削り取ってしまい、歯の表面はツルツルの平坦になってしまいます。
そのまま、同じように歯磨きペーストを使って歯磨きを続けていくと、歯はどんどん削れていき、知覚過敏症を引き起こしたり最悪の場合、神経を傷つけてしまい歯の寿命を短くしてしまう危険もあります。
では、全く使わない方が良いのでしょうか?
歯磨きペーストを使わないで磨くと歯の表面がややくすんで、しまうことがあります。
また、ペーストの中にはフッ素が入っているものもあります。
ペーストの正しい使い方は、ほんの少量(マッチ棒の先ぐらい)を使って、水だけでで磨いた後に最後の仕上げとして数10秒位の時間行うのが良いと思います。
歯ブラシの持ち方「グー」で握ってませんか?
よく歯ブラシの柄をジャンケンの「グー」のようにして握るようにして、磨いている方を多く見かけます。
実はこれでは、すべての歯のプラークを取るのは難しいです。
字を書いたり、お箸を持ったりするときは「グー」では持たないと思います。
理由は繊細な細かい作業ができないからです。
同様に歯ブラシも、鉛筆やお箸同様に「ペングリップ」で持つようにしましょう。
「グー」では細かいところが磨けないばかりでなく、腕の重さがそのまま歯にかかってしまうために、歯や歯肉を傷つける恐れがあります。
ほうきで畳の部屋を掃除する感覚で磨きましょう。
歯の磨き方ですが、「歯磨き」と言うとと文字どおりに、歯そのものをゴシゴシ磨いてしまいそうです。
歯磨きの本質はプラークを歯の表面から剥がしてやる「プラークコントロール」なので、歯をピカピカに磨き上げる必要は全くありません。
感覚的には畳の部屋をほうきで掃くのによく似ています。
ほうきは穂先をで畳の目に沿わせて動かすことでホコリを取りやすいような構造をしています。
歯ブラシも細いナイロンの束の毛先を歯と歯肉の間違った持ち方正しい持ち方境目や歯の間沿わせて動かすことによって、プラークを歯の表面から剥がすことができます。
つまり「ゴシゴシ」磨くのではなく、力を入れずに「サッサッサ」と軽く磨いてやるのがコツです。
毛先は45度の角度で歯に当てましょう。
歯ブラシのを歯に当てるとき水平に当ててしまうと、毛先が歯と歯の隙間に入っていくことができません。
ところが歯と歯肉の境目に向けて45度の角度で当ててやるだけで、毛先は歯と歯肉の境目に入っていくことができます。
電動歯ブラシについて
現在、色々な種類の電動歯ブラシが出ていますが、正しい使い方をしないと思ったほど磨けません。
普通の歯ブラシと同様に歯ブラシの毛先がプラークに届かないと、歯の表面からプラークを除去することはできません。
電動歯ブラシの柄はバッテリーが内蔵されているため太いのが一般的です。
そのため持つときに「グー」で持ってしまいがちです。
少々持ちにくですが、電動歯ブラシもペングリップで持つようにしましょう。
とても大事なプロフェッショナルによるメンテナンス
歯の健康を保つためには正しい歯磨きが大切なのは、わかったと思います。
ただし、自分自身で行う歯磨きには限界があます。
自分のお口の中のプラークの状態を目で見て確認することはできません。
実は歯磨きでプラークが取れるのは50%~60%が限界だとも言われています。
歯磨きで取れないプラークは第三者にとってもらう必要があります。
お子さんは仕上げ磨きを保護者の方が行いますが、実は大人にも必要なことなのです。
しかし、現実的にはご自宅で行うのは困難であると思います。
そのため、3ヶ月に一回ぐらいの割合で歯科医院で、歯科医師もしくは歯科衛生士にプラークの完全除去をする必要があります。
また、プラークの付着の状態を確認することによって、正しい歯磨きをしているかどうかのチェックも行うことができますし、プラークコントロールのモチベーションをアップにつながります。
治療より予防
ムシ歯と歯周病の原因は細菌です。その細菌はプラークそのものです。
正しい歯磨きと定期的なメンテナンスを行うことにより、プラークの歯の表面への付着を防ぐことによって、90%以上の歯の病気は防げることがわかっています。
ムシ歯や歯周病は自覚症状が出た時には、手遅れになっていることが殆どです。
治療をすることによって、機能を回復することはできても、歯の寿命を延ばすことはできません。
正しいお手入れを行うことによって、病気を予防して、生涯ご自身の歯で噛めるようにしましょう。